Yukina's Orangedays Diary

最近は子育て記録です。

辺見庸『もの食う人びと』感想 

またすごい本を手に取ってしまいました……。

 

 

『食』を通して現実を見る、と言えばいいのか、ソマリア、韓国、フィリピン、ドイツなど、とある場所に住むとある人々の食事と生活を描いたルポルタージュ。

 

古い本なので(平成9年初版)、そのときといまとでは状況が違うかもしれないけど、それでも世界のどこかでこんなことが起こっていた、現在も起こっている、これから起こりうる、と考えるとこわいし、考えていなかったんだなと。

 

最初のバングラデシュの残飯の売買の話から、こんなことが行われていることがショックだし、そこに身を投じる作者がすごいし、なんとなくそんな事実わかっているのに気がついていないフリをする自分が恥ずかしい。

 

このルポルタージュをわたしがすごいと感じたのは、ただ悲惨な現実をレポートしているんじゃなくて、『日々の食事』を通して見ていることが、おもしろい……というと語弊があるかもしれないけれど、やっぱりおもしろかったです。

 

残飯を食べる人、ベトナムの三等車、炭鉱労働者、ナイロビのコーヒーロード、その食事から見えてくる生活。

どんな状況でも、どんなものでも、食べないと生きていけないし、だけどこれが生きるって言えるのか?でも食べないわけにはいかないという切実さが文章から伝わってきて、いたたまれないです。

 

特にソマリアの章『モガディシオ炎熱日誌』が思っていた以上壮絶でした。

飢餓と飛び交う銃声、枯れ枝のようになった少女がいる一方で、助けに来た軍の人々は普通通り食事を取る……。

『助けに来た人』が通常の生活を送るのは当たり前のことだけど、なんともやりきれない。

 

そんな旅を続けている作者の辺見庸さんなんだけど、ナイロビで飲んだコーヒーや、炭鉱でのスープなど、時おり絶品の『食』が現れることで、食べて生きることは素晴らしいことだし、その形は人が暮らしている文化によって様々だってことを再認識させられました。

 

良い本です。

おすすめしておきます。